鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「……今夜の月はもう出ているので。キースを治癒出来るのは、明日の晩になります」

 オデットの使う事の出来る類稀な月魔法は、使用出来る条件や回数など何回も何回も検証された。そういう、動かし難い決まりがあるのだ。

 淡々とした口調でそう伝えたオデットに、アイザックは慎重に言葉を選んだ。

「……そうか……今夜はキースは、あそこからは動かさない方が良いと思う。怪我は塞がっているようだが。正直な話、城に居る治療師には、君の月魔法ほどの絶大な効果は見込めない。家に、帰るか?」

 オデットがここで頷けは、送ってくれるつもりだったのだろう。アイザックの最後の問いかけに首を横に振ったオデットを見て、彼は目を閉じてまた息をついた。

「わかった。キースの病室にも、付き添い用に簡易ベッドがあるはずだ。戻ろう」

 二人は連れ立って、ゆっくりと城の廊下を歩いた。キースが居た大きな病室に戻れば、彼は身体を横たえて力なく微笑んでいた。

「あー……俺の事は、もう気にしないでくれ。命の危機はとうに去り、少し体調が悪い程度だ……どうか、泣かないでくれ」

< 146 / 272 >

この作品をシェア

pagetop