鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(……睨み合いもなく、即進軍してくるなんて。おかしい。あの砦には竜騎士団の先陣が到着していることも、あちらは承知しているはず。双方の戦力が出揃うまでは、お互いに相手がどう動くかを窺うはず……なんで……?)

 眉を顰めたオデットは、ついこの間に読んだ初歩的な兵法書に書いてあったことを思い出していた。

 奇襲するのならいざ知らず相手の武力もまだ整っていない内に進軍するなど、定石であれば考えられない。もし砦を攻略するのなら、籠城戦を防ぐために補給路を断つ事が先決で初歩中の初歩だ。戦闘している時に、敵側の援軍が現れて挟み撃ちされてしまえば目も当てられない。

(どうして……砦攻略をなすのなら、通常であれば時間がかかる長期戦を覚悟の上のはず……キースの悪い予感と……それに、これまで無言を通して来たガヴェアの間を置かない、いきなりの進軍……何かを、企んでいる?)

 心の中でキースと相談をしているはずのセドリックは、慎重に地上の様子を窺っているようだ。すぐには砦へと降下をせずに、戦闘がどうなるのか、上空にて見守ることにしたようだ。

 ぞわりと、オデットの身体中の肌が粟立ったのは、その時だった。

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