鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 セドリックはカイルがいなくなってから、どんなにオデットが頼み込んでも降下する事をしなくなった。彼は、契約した竜騎士のキースと心の中で話すことが出来る。異変の起こりつつある砦には、絶対に来るなと厳命されたのかもしれない。

 こうして見ると上空からは、砦の中の様子はわからない。オデットがどんなに焦っても泣いても、夜に浴びた月光の力を使って一人を救うことだけしか出来ないというのに。

「セドリック! なんで、降りてくれないの……? どうしよう……どうしよう……でも、降りたとしても、私にはきっと一人しか救えない。あの砦には多くの人が居るのに!」

 襲い来る真っ黒な絶望を感じて、オデットは悲鳴に似た声をあげた。

 あの恐ろしい大蛇を禍々しい鉄巨人をどうにか利用する事で、この場所から取り払い彼らを上手く救えたと思っていた。まさか、間に合わなかったなんて少しも思わずに。

 その時、セドリックはふわっと翼を羽ばたかせてゆっくりと上昇を始めた。先程から曇り出した空には多くの雲が散って、月や星を遮っていた。

(……セドリック、なんで? ……ああ、月が……大きい)

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