鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 ほっと大きく安心したオデットの視界の中に大きな足音を響かせていた鉄巨人に散らされ逃げているガヴェアの軍勢の方向に、一瞬だけ黒い光柱が立った。

(カイル……自ら言ってたけど、あの呪いは術師に返されるって言ってたもんね……知っている人に死んで欲しい訳ではないけど。あの可哀想な鉄巨人も黒い大蛇も、もう二度と異世界から呼び出されることがなくなるなら、その方が良いのかもしれない……)

 自分にとって今まで憎むべき嫌な相手だったとしても、それでも。命を落としたのかと思うと、憐憫に似た複雑な気持ちが湧いた。

 カイルは魔法大国の中でも特に召喚の術に優れていて、異世界から召喚するという実験にも似た悪行を繰り返して来たはずだ。

 そうして、自分にとって便利に使役出来る鉄巨人を喚び出しては、逆らえない相手に良いように命を下して居た。彼らのように喚び出されたまま、元の世界に帰ることの出来ない悲しい存在がオデットの知らないだけで数多く居るはずだった。

 その時、どうしようもない悪夢からようやく目覚めることが出来たかのように。鉄巨人とそれが抱えていた黒い大蛇が、蜃気楼のように呆気なく消えてしまった。

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