鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 キースのこれまでの女性関係は、平和なものだ。あちらから告白を受け付き合い始めたとしても、特に執着することはない。そろそろ頃合いだなと思ったら、別れを告げる。先方もキースがそう言い出した事にほっとして、安心した表情を浮かべる。その繰り返し。

 面倒くさい立場にあったキースと、これからも共に居たいと思った女性でも、恋愛初期を過ぎ落ち着いた頭で、これから自分に起きることを計算するはずだ。

 これから自分がどれだけの理不尽な苦労をするのかを考えれば、浮かれた恋からすぐに醒める。

 それを見越して、別れを告げる。

 それは、優しさなのか。どうなのか。良くわからない。

 別れる時に、なんとも思わないように付き合っている間に、自分の気持ちを操るからだ。誰しも、恋に傷つけば辛い。どうせ別れるならば、それ程好きにならないようにと、そう思った。

 役に立つ鋭い勘は、いつもキースに無情にも告げて来た。「ああ。いつかこの子も、俺と別れる事を選ぶだろう」と。

 だから、キースにとって、突然現れたオデットの存在は相棒の竜セドリックの放つ電撃にも似ていた。

 彼女は躊躇わない。その先に待っていることを知らないからだ。彼女は真っ直ぐだ。この後に傷つくことを知らないからだ。

 オデットという存在は欲深い人の闇を見続けて来たキースには、あまりにも眩しく、そして惹かれることを抗い難い鮮烈な美しい光だった。

< 265 / 272 >

この作品をシェア

pagetop