鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 両手で持ち上げている高級なドレスの裾が、走る足に纏わり付いてうるさい。見張りの隙をついて走り出した時に、すべて切り捨てられれば良かったのに、嫌がらせのように重ねられた生地を切れるような鋭いナイフも持っていない。もうそれを支える腕の力にも、限界が来ていた。

 もうすぐ、オデットはあの恐ろしい大きな手にまるで小人のように捕まってしまうだろう。

 また呆れ顔をしたオデット担当の見張りたちの待つあの場所へと、まるで玩具の人形のように運ばれる。こんな事をしても無駄なのに早く諦めろと、嘲笑されて、とてつもなく屈辱的な絵面になることは目に見えていた。

 どんなに足掻いても、変えられない現実をまざまと直視する事になるのだ。

(いやだ……どうしても、諦めたくない。こんな……こんな自由のない身分から、逃げ出したいの! もう誰かに利用されるだけの人生なんて、まっぴらなのよ!)

 オデットは真っ直ぐに前を見つめて、強く願いながら走り続けた。もしかしたら、その時に神様はオデットの願いを聞き届けてくれたのかもしれない。

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