鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 いきなり胸元の釦を外し出したオデットに、いつも落ち着いている彼らしくなく慌てた様子でその動きを留めようとした。

「待て! そういう事は、段階を踏んでから……! いきなりは驚くし、俺も本当に驚いているし……って、これは?」

 あまりに慌てたせいか早口で言葉を重ねていたキースは、きょとんとした表情のオデットが彼に何を見せようとしてここに来たのかを察してくれたようだった。

「これは……逃げられないように付けられた鎖です。私を、縛っています。世界中の何処にいても、私を探し出せるように」

 オデットの説明を聞いたキースは眉を寄せて、ひどく苦しそうな顔になった。

「……痛くはないのか」

 じっと見つめても肌に埋め込まれている宝石は、きらめくばかり。彼は長い指で、確認するようにそっと宝石と肌の際に触れた。何故かその指の腹の感触が気持ち良くて、オデットは思わず息を止めた。

「っ……」

「肌に肉に、宝石は完全に埋もれているのか……これだと……もし無理に引き剥がせば、激しい痛みを伴うだろうな……なんと、酷いことを」

 キースは宝石の表面を撫でるようにしてから、手を引いた。険しい顔をしている彼に、オデットは説明を続けようと彼を見上げた。

「……あの、キース様。知っていらっしゃるかもしれませんが、私の月魔法は自分自身には使えません。なので、これを引き剥がしても、怪我は自分で治せないんです」

「それは、しなくて良い。どうにか出来ないか。俺も調べてみる。オデット、今日はもう寝ろ。そしてその魅力的な柔らかそうな胸元は、早く仕舞った方が良い。このまま、俺に襲われたくなければ?」

「えっ……」

 顔を真っ赤にして彼の言葉を聞いて慌てて釦を留めたオデットを見て、キースは軽く笑った。揶揄われた事を悟って、ますます顔を赤くしたオデットの髪を撫でた。

「はは。おやすみ。オデット。良い夢を……髪は乾かして寝ろよ?」

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