鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 いきなり現れた黒衣の男に何処かに連れ去られるオデットは、今自分の目の前にあるあまりにあり得ない事態にひどく混乱した。そう聞いていたのだ、だからもう自分にはこの人達は手を出すことは出来ないのだとそう思っていたのに。

(嫌だ。戻りたくない。何の自由も……私の意志なんて何もないあの場所に、帰りたくない。キース様……)

 すぐそこに居るというのに、こんな場所に魔法使いが来るとは思っていない彼は、未だにオデットがある状況に気がついていない。

「キース様!! いやっ……助けて……助けて! キース!!」

 そうオデットが大きな声で叫んで名前を呼んだら、こちらの状況に気がついて血相を変えて走って来たキースは手を伸ばしてくれた。

 オデットの指先がその指先に触れたと思った。それなのに。

 彼が居たはずの場所に広がるのは、暗闇。自分の絶望の悲鳴を、どこか他人事のように感じていた。

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