鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 逃げていただけのオデットの無謀に近い希望を叶え、国に連れ帰ってくれた。自分には全く得にならないというのに取り扱いの難しい身の上にあるオデットの庇護を申し出てくれて、自分の家で自らの手で守ると約束してくれた。責任ある立場を持ち多忙の中にあるというのに、かなりの無理を押してでも出来るだけ傍に居てくれた。

 彼にはオデットに対し何の責任もないというのに、生きていくために大事なことをいくつも教えてくれていた。

 今は何も出来ない自分だとしても努力するという喜びを教え、稀有な能力を使わなくてもオデットには価値があると認め、もし進みたい道があるのなら決して諦めるなと諭してくれた。

(……そうよ。あの時……私を連れ帰ってくれたばかりのキース様は、なんて言っていた? 絶体絶命の窮地にあっても、生きているなら諦めるなって、そう教えてくれたんだ)

「……風向きは、一定じゃない」

 小さな唇からぽつりと溢れ落ちた彼がくれた言葉は、しんとした自分以外誰もいない豪華な部屋に響いた。

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