鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 捕らえられた衝撃に呆然としていたオデットは、ようやくその事に思い当たり部屋に設られた大きな窓に目を向けた。

 大きな四角の中に見えるのは薄紅の夕焼けに染まる、幻のような雲海。ゆっくりと流れていく景色を見て、静かに涙が溢れた。

 今も尚ガヴェアに戻るための進路を進む飛行船の中に居て例え彼が優秀であっても、キースはオデットの位置を知ることも叶わないだろう。

 どんな理由で強力な力を持つ守護竜が護っている王都の中に、敵国と言えるガヴェアに所属する魔法使いが入り込む事が可能だったのかはわからない。でも彼と自分は、油断をしていた。王都にガヴェアの魔法使いが居るはずないと、そう思っていたのだ。

 でも、もうそんな些細な事など、オデットにとってはもうどうでも良い事だった。二度とあの彼に会えないこと、それだけが辛かった。

 共に過ごしたのはあっという間にも思える短期間だというのに、オデットはキースから沢山の優しさを貰った。

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