だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 彼の欲しいものが、久弥さんの妻としてなにも思い当たる節がないのが、情けない。

 私に結婚を持ちかけるときまで、久弥さんは鎌田さんと繋がりがあったの? 彼女との結婚を考えていたのに光子さんのために私を選んだの?

 与えられる情報が多すぎて、混乱しそうだ。

 でも鎌田さんは知っているんだ。私の知らない久弥さんを。

 当たり前だ。むしろ彼に関しては、知らないことの方が多すぎる。なんとなく予想していたとはいえ、鎌田さんとの関係を過去のものだと割り切って堂々としていられるほどの余裕なんて、まったくなかった。

 さらにそれを有沢さんの口から聞かされるなんて。

「ええ。寧々さんと結婚したら、十河さんは鎌田建設の後ろ盾を手に入れるのと同時にTOGAコーポレーションを継ぐ資格を得られるから」

『俺にはその資格がないから』

 久弥さんの発言を思い出す。その資格を鎌田さんは用意できるの? それを得られたら、久弥さんはどうするつもりなの?

 混乱していたら、有沢さんの口紅に彩られた綺麗な唇が弧を描いた。

「十河さんの祖父である久則社長は、十河さんの後ろ盾がないことを気にされていたみたいね。現社長もそう。でも、寧々さんと結婚したら、周りの十河さんの見る目は変わってくる。彼は起ち上げた会社に加え、鎌田建設も手に入れられるんだから」

 有沢さんはまるで自分のことのように誇らしげに告げた。
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