だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「すみません。そんなつもりはないんです」

 慌ててフォローしたら久弥さんは自嘲的に笑った。

「たしかに嫌いな相手と食事をしても苦痛なだけだろうな」

「へ?」

 彼の言い分に目を丸くする。嫌い? 誰が、誰を?

 久弥さんは軽くため息をついた。

「あまりいい印象をもたれていない自覚はある」

「そ、それはこちらのセリフなのですが」

 思わず本音で言い返す。どう考えても彼は私をよく思っていない。けれど今は先に誤解を解くべきだ。

「嫌っていませんよ。最初にあんな言い方をされて身構えたのは事実ですけど……でも嫌いになるほどあなたのことをなにも知りませんから」

 言ってから気づく。これはこれでまた無礼な言い方ではないだろうか。どうしてこう、私は上手く立ち回れないのかな。

「そうだな」

 自己嫌悪に陥っていると隣から反応があり、改めて顔をそちらに向ける。すると笑うとまではいかなくても、幾分か穏やかな表情をした久弥さんが目に映った。

「俺も君をまだよく知らない。だからひとまず一緒に食事をしないか?」

 まさかそういう結論に持っていくとは思わなかった。

「私はあなたにはもちろん、光子さんにもなにかしてほしいとか、返してもらおうとは思っていません」

 義理堅いのか、光子さんの意思をどこまでも尊重するのか。

「わかっている。俺が個人的に誘っているんだ」

 ところがあまりにもストレートな切り返しに、頬がかっと熱くなる。
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