だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 これはこれで反応に困ってしまう。どんな理由で断ったらいい? そもそも断りたいの?

 飾り気のない言い方だからこそ、彼に妙な下心がないのも伝わってきた。とはいえ嫌悪はなくとも逃げ出したい衝動に駆られる。

「祖母のお気に入りの店に連れていきたい。さっきはああ言ってくれたが、当分実現しそうにないんだ」

『退院されたら、光子さんとご一緒させてください』

 やはり光子さんの病状は芳しくないらしい。打って変わって厳しい顔になった久弥さんに、私は申し出を受け入れると短く返した。

 どこかに久弥さんは電話し、車は走り出した。しばらくして連れていかれたのは、白く四角い大きな建物で、看板らしい看板も出ていない。

 彼について中に入ると、意外にも和のテイストで木の温もりにホッとする。通されたのは個室で、久弥さん曰く、お箸で食べる創作フレンチのお店なんだとか。有機野菜をメインに素材にもこだわっていて女性にも人気らしい。気軽に訪れるには、私には敷居が高すぎる。

 好き嫌いやアレルギーを尋ねられ、大丈夫だと答え注文は彼に任せた。

 おしゃべりが得意ではないうえ、彼となにを話せばいいのか悩む。しかし意外にも久弥さんからいろいろと話題を振ってくれた。私の仕事や母が事務局長を務めるNPO法人についてなど、当然と言えば当然の内容を聞かれる。

 母の病状も心配され、かいつまんで説明した。昔から体が病弱だった母は、あまり体力の必要な仕事はできない。けれど人と会ったり、事務作業が得意なのもあって、友人が立ち上げたNPO法人の事務局長にどうかと声をかけられたのだ。
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