だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 ただ、帰りの車の中で伯父さまへの挨拶はいつ行うべきだろうかと尋ねたら、また会う機会はあるだろうからべつにかまわないと回答があった。

 それでいいのかと返そうとしたが、すんでのところでやめる。最初から期間の限られている契約結婚だ。別れるのが決まっているのに、へたに彼の人間関係に私が介入すべきではない。久弥さんも同じ考えなんだろうな。

 結婚指輪は久弥さんに任せていた。私からの希望はとくになく、これといった憧れもなければジュエリーブランドに詳しくもない。

 なんなら指輪自体なくてもいいくらいだ。しかし、久弥さんの立場的にそれが許されるはずもなく、おとなしくサイズを伝えたら、彼が用意してくれた。

 上品なウェーブ・カーブのデザインで、プラチナのシンプルなものだ。私の方にはダイヤがいくつか埋め込まれていてキラキラと輝いている。

 値段を尋ねるほど野暮ではないが、間違いなく今までの人生で私が身につけてきたアクセサリーの中で一番高価に違いない。

 彼から受け取り、お礼を告げて自分で左手の薬指にはめる。はめてもらおうとは思わないが、ここである事実に気づいた。痩せたのか、普段指輪をする習慣があまりないからか、 少しだけ指輪がゆるい。

 どうやら伝えるサイズを間違ってしまったようだ。

『どうした?』

『い、いいえ。初めて左手の薬指に指輪をするので……』

 久弥さんに尋ねられ、とっさにごまかす。いちいち指摘するほどのことでもない。
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