だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 それから久弥さんは決して早い時間とは言えないが、帰ってきてから私の手料理を食べるのが当たり前になった。

 彼の希望を取り入れつつ栄養や、あまり胃もたれしないメニューを心がける。

 彼が食べている間は私もテーブルについているのだが、無言なのもなんなので他愛のない話を振る。メインは、光子さんや母の様子についてだ。

 今まですれ違ってばかりの生活だったのが一転して、私たちは顔を合わせて一緒に過ごす時間を持つようになった。

 そして――。

「久弥さん」

「ん?」

 私の呼びかけに答えたが、久弥さんはこちらを見ない。彼の整った顔をすぐ近くで見上げ、たどたどしく訴えかける。

「これは……意味があるんでしょうか?」

 久弥さんの目線は手元の本に注がれている。ソファに座り、空いた貴重な時間を読書に費やすのは彼の自由だ。問題は、その体勢だ。

 なぜか彼は私を背後から抱きかかえる形で本を読んでいる。いくら久弥さんが背が高く体格差があるとはいえ、この格好は絶対に読みづらいだろう。

「意味は求めていない。好きに過ごしているだけだ」

 彼の回答をどう捉えたらいいのか。おかげで私は密着した背中から伝わる体温や、両側から回された腕よりも、目の前に開かれている本を読む彼を邪魔してはいけないとおとなしくしていた。

 久弥さんに言わせると〝夫の特権を享受している〟らしい。
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