だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 久弥さんが食事している時間を共有するのに加えて、こうした触れ合いまで日課となっていた。

 その効果かどうかはわからないが、週末にふたりで光子さんのもとを訪れた際に、彼に肩を抱かれたり隣に並ぶのを以前よりも抵抗なく受け入れられた。

 俗に言う仲睦まじい新婚カップルだ。そんな私たちを見て、光子さんは嬉しそうにしていた。

 光子さんの治療については、今度医師に勧められた副作用の少ない新薬を試してみるそうだ。DNAの型から五人にひとりしか効かないそうだが、光子さんが前向きに治療を検討しようとしたのは、私たちの結婚がやはり大きいようだ。

『本当は、もうこれ以上の治療はやめようと思っていたんだけれど……久弥と瑠衣さんの結婚式に参列しないとならないしね』

 茶目っ気たっぷりに光子さんは話してくれたが、その決断をするまでたくさん悩んで葛藤があったに違いない。

 久弥さんは仕事が忙しい中、光子さんの体調も気遣いながら、家でも私との距離も縮めようとしてくれている。

 久弥さんは心安まるときがあるのかな?

 久弥さんが読んでいるのは専門の経済書のようなものだ。本は嫌いではないが、これは興味本位でも読んでみようとは思わない。

 難しそう。

 目をこらして本の内容を追ってみようとするが、頭に入らない。なにより……。

「眠いのか?」

 不意に問いかけられ、肩をびくりと震わせる。心の中を読まれたかのようなタイミングだ。
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