だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 久弥さんは一度本を閉じて、私の頭を撫でる。本に集中していると思っていたら、ちゃんと私の様子にも気を配っていたらしい。

 久弥さんはソファに深く腰掛け直すと、私を自身にもたれかけさせた。

「眠いならどうぞ」

「……そういう話じゃないんですが」

 彼の対応に目を白黒させる。部屋に戻るよう促されると思っていたし、私もそれを望んでいた。

 でも伝わってくる体温はたしかに心地いい。この体勢だから眠気を誘われたのかな? 本当に寝てしまいそう。

 少しだけ葛藤して思いきって彼に身を預ける。すると久弥さんは応えるように私の肩を抱いて引き寄せてくれた。

 しばらくしてまたページをめくる音が聞こえだす。

 私、ここにいてもいいのかな? 名ばかりの妻だけれど、こうして彼のそばにいても……。

「今度、グラタン……作りますね」

 消え入りそうな声で呟く。久弥さんが食べたいとリクエストしてくれたのは、マカロニとチキンが入った定番のものだ。

「楽しみにしている」

 毎回、用意した食事をペロリと美味しそうにたいらげてくれるのは、作り甲斐(がい)もあるし嬉しい。少しはお飾りだけではなく妻として彼の役に立てているかな。

「ありがとう。瑠衣には感謝している」

 頭を撫でられながら、どこか遠くのことのように聞こえる。だから彼がそう言ったのはもしかすると夢だったのかもしれない。
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