だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「瑠衣がもう平気ならかまわないが」

 彼の言わんとする意味を悟り、しばし葛藤する。自分の立場を考えたら答えは決まっている。でも……。

「一緒にいたいって、言ってもいいですか?」

「どうぞ、奥さん」

 声を振り絞って尋ねたら、余裕たっぷりの返事があった。こわごわと彼の手を取ると、引き寄せられベッドの中へと導かれる。

 掛布団から顔を出し、すぐ隣にいる久弥さんを見つめる。それに気づいたのか、彼は肘枕をして少しだけ私を見下ろす格好となり、空いている方の手で頭を撫でてきた。まるで子ども扱いだ。

 これは私が怖い夢を見ないようにするため?

「寝られそうか?」

「……はい」

 同じベッドに入ったもののさっきよりも距離はある。夫婦にしては遠い気がするが、私から縮める勇気もない。

 額に口づけされたとき、あの流れで最後は唇にキスされると思った。それを受け入れようとしていた自分もいて、恥ずかしくなる。

 見透かされていたらどうしよう。それとも見透かされたから離れたのかな?

 キスはやはり特別だ。恋人や夫婦、好き合っている者同士ではないと。私たちは違う。自分たちの関係をはっきり突きつけられた気がする。

 今この隔たりもそういう話なんだよね。

 でも、どうであれ久弥さんの私に対する優しさや思いやりは本物だ。

「久弥さんは、大人になってから怖い夢を見ないんですか?」

 湿っぽい空気を払拭するため、気を取り直して尋ねてみる。彼がここまで親身になってくれるのは、子どもの頃の記憶のせいだけなのか。
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