まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え①~人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

001 邂逅

 誰かに呼ばれた気がして、振り返った。

 え? 私は目を何度か擦って、見える風景を疑った。

 さっきまで、アスファルトの上を歩き、コンクリートの塀に囲まれた道を歩いていた。そのつもりが、今は鬱蒼とした森の中に居る。

 気がついてみたら、靴の下にあるのはアスファルトの硬い感触じゃない。踏み固められていない土の、ふんわりした踏み心地。

 暗い。

 もちろん。ついさっきまで頭上にあったはずの街灯なんて、今ある訳なんてなくて。救いなのは、明るい満月の薄明かりであたりがすこしだけ見えるってことだけ。

 どこか遠くでおんおん、という獣の遠吠えが聞こえる。

 なんで。嘘だ嘘だと思っても、目に映る風景は幻のように消えてはくれない。胸に迫るような焦燥感だけが募る。

 なんで……なんで。ほんの少し前まで、いつもの通り慣れた帰り道のはずだった。

「あれ? うっそ、女の子が居る」

 背後から聞こえてきた声に、私はまた振り向いた。

< 1 / 287 >

この作品をシェア

pagetop