まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え①~人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~
 それと、この日本では厳密に言うと苗字というものはなくて、〇〇の里の透子、というように育った地域で個別に名乗るらしい。こんなにたくさんの人狼が居るんだから、同名の人が居たらどうするんだろうという疑問はあったけれど、その時になればわかりますと言葉を濁された。

「あの」

 夫選びがはじまって、五日目になった朝、私は意を決して泰志さんに言った。これまでにもう何十人にも会った上での言いたいことだ。

「何ですか。透子さん」

 次に控えている人狼たちの釣書の束を、どさりと音をさせて私の前に置くと泰志さんは首を傾げながら不思議そうにそう言った。

「あの……私がこの日本に来て最初に会った、三人って……候補にはならないんですか?」

 泰志さんは、それを聞いて目を見開いた。そんなにおかしいことを……言っただろうか? あの三人だって、見目も良く私との年齢の釣り合いも取れているし優秀そうな様子ではあった。何故あんな山奥で居るのかを、わからなくなってしまう程に。

「……彼らは……透子さんの夫候補には、相応しくありませんので」

「え? えっと……どういう事ですか?」

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