まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え①~人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~
 夢みたいなのはこちらの方で、とても現実とは思えない。何もかもを持っているように見える彼は普通なら、私なんかが近寄ることの出来ない場所に居るはずの人だ。

「いいえ。そうでもないですよ。僕は、僕たちは、あのまま森の番人として何も望まずに朽ち果てていくように思っていたけれど……でも、本当は……」

 言葉を切ったままで何も言わなくなってしまった理人さんに、私は首を傾げた。

「え……? 本当は?」

「こんな時に思い出話は、無粋でしたね……続きしましょうか?」

「……はい」

 苦笑した理人さんと向かい合い、一度軽いキスを終えて大胆な気持ちになっていた私は彼の膝に横座りをした。

「今から、深いキスをしますね。あの……少しだけ口を開いて貰って良いですか?」

「……これで、良いですか?」

 私はちょっとためらいながら、かすかに開いた彼の唇にそっと近づいた。綺麗なグレーの透明感のある瞳が間近で私がしようとしていることを興味深そうにじっと見ている。

「目は閉じて……」

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