契約彼氏とロボット彼女

受け入れ難い現実




颯斗はホテルからチャペルに繋がる庭園に足を踏み入れると、チャペルからパイプオルガンの音が漏れてきた。
その瞬間、式が既に行われている事を知る。



チャペルの扉前にはホテル従業員が二人。

一歩……。
そして、また一歩。

地面をゆっくりと踏み締めていく度に、心臓が口から飛び出していきそうなくらい胸がドキドキしてしていた。



俺はこれから前代未聞の挑戦をする。
成功するかわからないけど、後悔しない道を選んだ。


サヤと過ごした二十八日間。
振り返ってみたら、彼女が以前言っていたように毎日が記念日だった。

俺は何気ない一日に感謝する事を忘れていたから、こんな最悪な事態を引き起こしてしまった。

もっと早く彼女のヘルプに気付いていれば、今日という日が違う一日になってたかもしれないのに……。


いま自分に戦える武器は一つしかない。
でも、そのたった一つの武器に全てを賭ける事に決めた。




扉前で待機している女性従業員二名が、庭園に足を踏み入れた颯斗に気付くとパラパラと近寄る。



「すみません、お客様。いまこちらの教会で挙式が行われてまして……」



白いTシャツに黒いシェフパンツ姿とラフな装いで式の参列者じゃない事が一目瞭然だったせいか、少し困惑した表情で声をかけられた。

だが、その瞬間自身の中でスタートを切った。



「おっ、お客様!!」



一人の従業員の横を走って通過したが、もう一人が盾になって俺の腕を掴んで引き止める。



「お客様、困ります。挙式の最中ですので、どうかお引き取り……」
「本っっ当、すいません。俺の一生がかかってるんで、先を行かせていただきます」


「お客様っ!! お待ちください!」



俺は彼女の手を振り解き強行突破で教会の扉を両手で勢いよく開けた。



すると、その先には……。

神父や二十人ほどの参列者が見守る中で、窪田からサヤへ誓いのキスが行われようとしている。

俺は目の前の現実が受け入れ難くて胸が引き裂かれそうになりながらも、精一杯力を込めて叫んだ。



「サヤあぁあぁーーーーっ!」



叫び声に気付いた沙耶香と瞬は颯斗の方へ顔を向けると、式の参列者もつられるように視線を当てた。



「颯斗……さん……。どうして……」



沙耶香は仰天しながら颯斗と目を合わせる。

従業員が颯斗の背後から手を伸ばして捕まえようとするが、その背後から現れた右京が従業員の腕を引き寄せて足を止める。


颯斗は先ほど車中で書きなぐった紙をポケットから出して右手でグンっと前に突き出した。

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