春、忍ぶれど。

03

「あ……起きられました?」

 間近にあるその顔を見てシャロンは思わず目を見開いて驚いた。つい先ほどまで見ていた夢にも出てきたラルフ・バーデンその人だったからだ。シャロンは慌てて彼の整ったその顔から遠ざかろうとして、顔を背けた。

「……っ。え? えっと、あのっ」

 動揺してしまって、思わず両手を頬に当てた。さっきの官能的な夢の中で、この誠実そうな彼に自分は、なんてみだらなことをさせてしまったんだろうか。捲れ上がっていたはずのシャツはきちんとスカートの中にあるし、絶対に夢を見ていたんだとシャロンは確信した。

「シャロンさんはお花見中に飲みすぎてしまったみたいで、今は城の休憩室で休んでいるんですよ。僕は付き添いでついていました……気分はどうですか?」

 淡々と今の状況説明をして、気遣ってくれるラルフに何も言わずにこくこくと頷いて、顔が熱くなってくるのを隠せない。そっと渡された冷たい水の入ったコップを受け取り一気にそれをあおった。ひと寝入りしたせいか、泥酔していたとも言える酔いはだいぶマシになってきているようで、だんだんと頭が働き始めた。

< 12 / 41 >

この作品をシェア

pagetop