春、忍ぶれど。
(どうしよう、こんなに近くに彼が居て、それも二人きりなんて……)

 一秒でも早く立ち上がって走り出してこの場から逃げ出したくてたまらない。顔はきっと真っ赤だし、緊張のあまりうまく息が吸えなくて呼吸だって整わない。それでも、この彼に変に思われたくなくて、涙がじわっと出てくる。

(恥ずかしい。うまく話せないし、きっと変に思われている。お花見で飲みすぎて、こんなことになるなんて、まったく予想していなかった)

 近くに居る彼はその挙動不審な様子を見てどう解釈したものか、涙目のシャロンにやさしく囁いた。

「あの、良かったら家にお送りします。飲みすぎて足元もおぼつかないと思いますし……それにシャロンさんが寝てからかなりもう時間が経っていて、結構良い時間になっているので」

 そう言われて部屋にある大きな窓に目を走らせると真っ暗だ。室内は明るい灯りがついていて、よりその闇が暗く思えた。もしかしたらラルフは自分が寝てしまい、近くで呑んでいた関係上、責任を感じて帰れなくなってしまっていたのかもしれない。

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