春、忍ぶれど。
(……本当に喉が乾いているだけなのかもしれない。すこしお話して、お茶だけ飲んで帰ってもらおう)

「えっと……じゃあ、少しだけなら……」

 結局押し負けるようにしてシャロンはラルフを家に上げることになってしまった。

 そもそもこの帰り道の最初から彼の手助けなしにまともに歩けなかったし、彼に家の中に入ってもらうのは彼の隣で泥酔してしまったその時から、決まっていた事とも言える。

 家の鍵を開ける時もラルフは優しく体を支えてくれたし、そのまま寄り添って狭い一軒家の中に入り、短い廊下を通ってリビングにあるソファに座らせてもらった。

「……ありがとうございます。私すぐにお茶をっ……」

 そう言ってから、また立ちあがろうとしたシャロンの手を掴んでラルフは隣に座ると微笑んだ。

「ねえ、シャロンさんの好きな人って、誰のことなの?」

 その目は、笑顔の中にあってとても笑っていると形容するには難しい、そんな光を秘めていた。
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