春、忍ぶれど。

04

 まさか好きな人、その人本人にそんなことを聞かれると思ってなくて、シャロンはひどく動揺した。

 戸惑い、何も言えずにいる間に、その爽やかで端正な顔を間近に感じて、驚く間もなく唇を塞がれる。さらっとした前髪が額に触れた。シャロンの体はその逞しい両腕にぎゅっと囲まれて、逃げ道がなくなってしまう。

 彼の腕の中からもうどこにも行けない。

「んっ……ラルフっ……あっ……」

 お互いの唇をくっつけたままで、何度もその名前を呼んで硬い胸を叩くけれど、抱きしめたままで離してくれない。彼はそんなに力を入れているように思えないのに、その腕からはまったく逃げられそうにない。何度目かの呼びかけをしようと開いた唇の中にぬるりとした熱い舌が滑り込む。呆気にとられたシャロンの舌も瞬く間に彼の口内に吸い込まれ、弄ばれるようにくちゅくちゅとした水音がした。

 こんなキスをしたのは初めてだった。今までの人生の中で彼氏など居たことはないし、そうあの事があってからずっと目の前に居る彼のことが好きだったから、誰から告白されても、断ってきたのだ。

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