春、忍ぶれど。
 そして近衛騎士は王族の警護などを担当しているだけあり、どうしても選ばれる騎士は見目が良いのが暗黙の了解になっている。かつ身元が確かな事も大前提だから、血筋も良く体格の良い騎士たちの中でも美男だけを揃えている。だから、とても人気があるのだ。

 そして、これはシャロンだけの秘密ではあるんだけど、あの憧れのラルフは優しくて困った人を見捨てられない、そんな人。今はもしかしたら恋人がいないかもしれないけど、それも時間の問題だ。きっと、彼ならすぐに出来るだろう。

(何を考えているんだろう。貴族の御令嬢でも、それこそ誰でも、近衛騎士の彼と結婚したいと思うだろう。私みたいなお針子なんて、きっと相手もされない……あの時の事だって、彼はもう忘れてしまっているだろうし)

 リサの話に生返事を返しながら、シャロンは手を動かした。細かな美しい刺繍がその生地に彩られていくのを、なんとも不思議な気持ちで見ていた。

 いきなりバタバタという足音がして、扉が開く。お針子達のまとめ役、サラの大きな声が響いた。

「やったわ! 三日後のお花見、近衛騎士の隣をくじで勝ち取ったわ!」

 その声にシャロンは呆然としたが、周りに居るお針子たちは大きな歓声をあげた。さっきリサが言っていたお花見の場所取りのくじ引きは先ほど行われたらしい。

 自分の所属しているお針子達もたくさん居て、彼の所属している近衛騎士達も今存命している王族の数に比例して、かなりの人数が居るはずだ。でも、近づくことは出来ないかもしれないが、ピンク色の花びらの舞う中で、彼のあの姿を近くに見ることが出来る。

 そう思うと、今から胸がいたいくらい高鳴り、そして舞い上がりそうになる、ふわふわした心を掴むので精一杯になった。

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