春、忍ぶれど。

02

(えっと、どうしてこうなったんだっけ)

 シャロンはなみなみとお酒が注がれていく自分が手にもつグラスをじっと見ることしか出来ない。桜舞い散るお花見会場はざわざわとしていて、楽しそうな歓声や笑い声が聞こえてくる。誰かが調子に乗って歌い出すのも聞こえる。調子っぱずれの歌声に合わせて手拍子が鳴って、お花見は盛り上がってきていた。

 右隣にはあの憧れのラルフが何故か座っていて、シャロンの体にある全神経は右に集中しているようだった。彼が居ると思うと、空気すらも敏感に感じとってしまうようで体は熱くなっていく。今までに何杯か飲んだお酒のせいもあって、シャロンはなんだか、夢見心地でまったく現実感がなかった。

「あの……シャロン、さん? お酒入りましたよ」

 その低い声が耳元で響く。はっとしてシャロンは慌てて頷いた。すぐ近くに居るラルフは優しく微笑み、それにどう返して良いかわからなくなって、シャロンはなぜか、グラスの中のお酒を一気飲みした。

「おー。シャロンさん、良いねえ。もっともっと飲んでよ」

 左隣にいるのは先ほどグレアムと自己紹介したラルフの同僚の近衛騎士の一人だ。例に漏れず彼も美形でなんとも女の子に騒がれそうな容姿をしている。そうだ。お針子の仲間達と決められた場所で飲んでいたら、この陽気な彼に声をかけられ、名前を聞かれて答えると何故か腕を引っ張られて、当然のようにラルフの隣に座って、それで、お酒の入ったグラスを渡されて、それで。

 今?

「はい。グレアムさんは呑んでますか?」

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