春、忍ぶれど。
 こんなに胸が痛くなるくらい意識しているのは、自分だけなのだと思うと恥ずかしくて、いたたまれなかった。

「シャロンさんって彼氏いるんですか?」

 やっぱりまた緊張感からグラスの酒を飲み干してしまったシャロンに、また酒を注ぎながらグレアムは聞いた。その問いかけられた言葉にふるふると首を振って否定する。何度も一気飲みを繰り返しだいぶ酒が回ってきたのか頭の中がふわふわする。頭上にある桜の風景がピンク色の大きな雲にも思えてきた。

「え、いないんですか? へえ……じゃあ、好きな人とかは?」

 探るようなその言葉にふかく考えられなくなってきたシャロンはグレアムの方を向いてこくんと頷いた。もちろん、それが反対側に座っている人なのだということは決して言えないけれど。

「へえ、好きな人はいるのか……どんな人なんです? 今付き合ってないってことは望み薄とか?」

 空きっ腹に何杯も一気飲みしてしまったせいか、頭がうまく回らない。ここがどこだったか、隣に居るのが誰だったかも曖昧になるようなそんな霞むような意識の中でゆっくりと頬を染めながら答えた。

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