春、忍ぶれど。
 お酒のせいもあって目が据わってきたシャロンは左隣の綺麗な顔をしたグレアムに向き直った。右に居るラルフのことはもう、見なければ気にならない。あの爽やかな整った笑顔も視界に入らなければ、その特別な気配を感じただけで高鳴る心臓が壊れることもない。

「もちろんですよ。可愛い女の子が隣に居ると思うと酒が進みますね……なあ、ラルフ?」

 にやにやとしたなんとも形容しがたい笑みを浮かべながら、グレアムはシャロンの向こう側に居るラルフに声をかけた。シャロンはまたグレアムの持つ酒瓶から注がれる酒をじっと見てなんとか意識を散らす。

 でないと、本当にどうにかなってしまいそうなのだ。さっきから今にも心臓が爆発してしまいそうな緊張感で手がふるえる。

「……シャロンさん? これ美味しいですよ。良かったら、食べませんか?」

 そうラルフに言われて無視することも出来ずにラルフの方に体を向けて、花見のために用意されたつまみの載った皿を受け取るとちいさく頭を下げる。爽やかで端正な顔立ちの彼は、明らかに様子のおかしいシャロンに嫌な顔ひとつせずにあくまで優しく微笑んでいる。

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