新そよ風に乗って 〜幻影〜
「はい。ありがとうございます。高橋さん。寝てしまって、ごめんなさい」
「気にしなくていい」
高橋さんが、優しく微笑みながら言ってくれると、ついホッとしてしまう。
「送って下さって、ありがとうございました。おやすみなさい」
また月曜日に会えるのに、何だか別れるのが寂しいな。
「おやすみ」
家に入って、少し冷えた体を温めるためにお風呂に浸かりながら、思い返していた。
満天の星空、綺麗だったな。高橋さんに抱きしめられて……。
うわあ。
思い出しただけでもまたドキドキしてきて、恥ずかしくなって湯船に顔を沈めた。
だけど、聞き取れなかった高橋さんの言葉が気になった。
きっと、もう教えてもらえないだろうけれど……。

週明けの10月3日から、来年就航するLCC路線の新会社の設立に伴う新入社員研修の受け入れが始まり、経理にも何名かの研修生が配属になると事前に聞いていた。
1日は説明会があったようで、事務所には姿を見せなかった研修生達が、朝礼で紹介されている。
もう直ぐ始まるんだ。LCC路線運航が……。
会社の未来を背負っているので、頑張って欲しいという経理部長の話を聞いていると、本当に頑張らなければいけないと思う。本社も、今が正念場だとも言われてた。
高橋さんに言われた通り、私も自分にできることから始めよう。
今日から1週間交代で、各所属に研修生がローテーションで廻ってくるようで、各所属に 毎週何名かの研修生が入る。担当はその都度持ち回りのようだが、いろいろな所属の研修を受けたり、本人達の希望も含めて考慮に入れるため、仕事内容の講義等も予定されている。
各所属から提出される研修報告書を見て、各研修生の得手、不得手を本社の人事が見極め、新会社の人事に報告する手順になっているが、新会社の人事も経験者とはいえ、新入社員なわけだから、当面本社人事からも出向して人事のことも教えていくらしい。3月の開業にあたり、この研修結果を1月の本配属を決める目安にするという。勿論、人事だけではなく、どの部署も人事と同じように新入社員が今後を担っていくわけで、同じことが言えるのだから、当たり前だが本社の社員も真剣に教えなければならない。
経理にも、4名の新人研修生がやってきた。
そして、会計監査にも1名配属されることになって、高橋さんと中原さんが、朝からその新人を迎える席を作っていた。
机は高橋さんの隣の席で、中原さんと私がL字型に隣同士なのと同じように、逆のL字型に座るので、私研修生が横一列に隣同士に座る感じになった。
そして、経理部長が研修生を連れて会計にやってきた。
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