来る日も来る日もXをして
退社する為に給湯室でマグカップを洗う。昨日お土産として買ったものだ。条件反射的に明日先輩の顔が浮かんできてしまう。なお今日のキスはエレベーターで偶然ふたりになった時に済ませていた。

「今日は帰り早いんだね。」

頭の中に浮かんだ先輩が急に言葉を発したので驚いて手を滑らせマグカップを落としてしまう。すんでのところで後ろから伸びてきた長い腕がキャッチしてくれて事なきを得た。

「・・・あ、ありがとうございます。」

振り返らないのも失礼だと思い振り返ったら明日先輩の顔が目の前にあった。目が合った途端先輩の瞳が色気を帯びる。それを見た瞬間意思に反して目を閉じるが閉じる前に唇が触れた。

「・・・今日は高部さんと飲みに行くので。」

明日先輩の体温が残ったままの唇が冷静を装って質問に答えるがかなり動揺している。そしてそのことは先輩にも伝わってしまっているだろう。

「更科、酒飲めないよね。無理するなよ・・・って更科はしないか。まだ月曜日だし。」

「・・・もしかして先輩も本当は弱かったりしますか?」

「当たり。よくわかったね。いつも飲む前後に万全の対策してるつもりだけど、皆と別れてからトイレ駆け込んでるし、毎回二日酔いしちゃうんだ。」

先輩は拳を額に当てて苦笑いしている。

「体に合わないんだから無理しちゃ駄目ですよ。」

「・・・更科が言うなら辞める。」

その言葉にドキンとしてしまう。

「あ、明日先輩、菘先輩見ませんでした?」

唐突に聞こえた美彩ちゃんの声に体が硬直する。彼女からは長身の明日先輩の体に隠れて私が見えないようだ。先輩は自分の体で私を包むようにした。先輩の体温と圧が私の鼓動を加速させる。カチコチの石像のようになっているのに、こんなに熱を持ち激しく心臓を動かしているなんて変な感じだ、などと思った。

「い・・・いや、見てない・・・けど。」と明日先輩も明らかに動揺しているが、美彩ちゃんは気にならなかったようで『そうですか。トイレにもいなかったし先に下に降りちゃったのかな。じゃ、お先に失礼します。』と去ろうとしている。

明日先輩が『お疲れ。』と返し美彩ちゃんのヒールの音が遠ざかっていっても私は先輩に包まれたままだった。

「せ・・・んぱい?」

「あ、ああ、ごめん。更科もお疲れ。飲み会、気をつけて楽しんできて。」

明日先輩はそう言いながら私から離れ去っていった。

───そう言えばなんだか最近の美彩ちゃん、明日先輩にベッタリじゃなくなったな・・・・。

その理由はすぐにわかるのだった。
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