来る日も来る日もXをして
「こっ、この状況見られたら・・・。」

「僕は構いませんけど。」

「駄目!隠れないと!」

「そこのボックス、何も入ってませんけど。よく中で寝てます。」

「入るわけないでしょ!ていうか手離して!」

小声で言い合っている間にも『あの資料って一番奥だよね。』『そろそろ昔の資料も電子化した方がいいわよねぇ。』などと部長と社長の声が近づいてくる。奥に行くほど昔の資料になっていて、私達は倉庫の最奥にいた。

「ど、どうしよう・・・っ!?」

東雲くんはボックスの蓋を開けると私を抱き上げその中に寝かせた。

「ち、ちょっと!」

自分もすかさず入ってきて蓋を閉める。中は暗く覆い被さってきた東雲くんと体が密着している。

「あ~あったあった!」

部長の声がすぐ近くで聞こえる。収納ボックスのプラスチック一枚隔てて向こう側に上司達がいる。物音を立てたら終わりだ。

「懐かしいわねぇ!これ、私達があのオンボロアパートで一緒に暮らしてた頃の資料よね。」

社長が嬉しそうに声を上げる。

「お風呂はないしトイレは共同で、元々狭いのに試作品やら資料やらで寝る場所なかったよね。」

「今の時期はすきま風が寒かったわよねぇ。光熱費節約したいからモコモコに厚着して・・・」

「あれね、二人ともダルマみたいだったよね。しかも壁薄くて、隣のカップルが・・・。」

「そうそう・・・よくも毎晩毎晩あんなことって感じだったわよねぇ。」

「私達なんか、少しでも売ることで精一杯で恋人どころじゃなかったのにね。」

「ねぇ。せっかく作った商品もボロボロに言われて・・・。」

「あのクソジジイ今も忘れないよ。今何してんのかな。」

「きっとじいさんになってすっかり丸くなってるわよ。そう言えば、ねぇ、覚えてる?」

二人はすっかり昔話に花を咲かせていた。

───早く出ていって!・・・ん?

お腹の辺りに違和感がある。暗くて見えないけれど何かが(あや)しく(うごめ)いているような。

───って東雲くん!?
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