来る日も来る日もXをして

社内の信じられない状況

明日(あけひ)先輩がちゃんと大人に戻れるか心配で、戻ったら写真を送ってもらうようにお願いした。日付が変わってから大人に戻った先輩の写真が送られてきた。

『自撮りなんて初めてしたよ。ものすごく恥ずかしい。この写真、誰にも見せないで。今日は本当にありがとう。』

写真の後にはそんなメッセージ。その割に写真はまるで芸能人の宣材写真みたいにばっちりきまっている。

先輩が子どもになってその先輩とキスをして・・・それは夢の中の出来事みたいに感じていた。けれどその写真とメッセージを見て現実だったんだという実感が湧いてきて、ほとんど眠れなかった。

今現在、定例ミーティングで何事もなかったようにスマートにキャンペーン準備の進捗状況を報告する先輩にはいつものように女子社員達から熱い視線が注がれていた。そもそも私が勤めるこの会社は社長を筆頭に女性が7割を占めているのだ。

和雑貨がもっと身近になってほしい───社長がそんな想いで副社長と立ち上げた会社。伝統を大切に流行も敏感に取り入れたアイテムを揃えている。企画から生産、販売まで全て自社で行い、プチプラなのも好評だ。海外にも店舗がある。

明日先輩は社のエースで、先輩が企画した新春福袋が大成功したばかりだ。

「はぁ~明日先輩今日も素敵ですね。仕事出来て俺様なのがたまりません。私、先輩だったら一晩だけでもいいです。キスだけでも。」

ミーティングが終わり皆が席を立った後、通勤途中のカフェで購入した眠気覚ましのブラックコーヒーを飲み切ってしまおうとしていた私の隣で一年後輩の高部 (たかべ)美彩(みあや)ちゃんがうっとりとした表情で言うので思いっきりむせてしまった。彼女の口癖のようなセリフなのに、自分が先輩とキスをしたことですっかり慌ててしまったのだ。
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