来る日も来る日もXをして
駅に向かう途中『あ、ここがフロントだね、古民家ホテルの。』と明日先輩が立ち止まる。

昨日の朝の新幹線で、古民家に泊まれる、という情報を見て、大人ホテルではなくそういうところに泊まりたかった、などと話していて、私はついつい先輩と一緒にそこに泊まることを想像してしまっていたのだ。

「素敵ですね。」

ほっこりするような内装に見とれていると『いらっしゃいませ。本日空室ありますよ。人気のお部屋なんですけどキャンセルがありまして。』とホテルの方に話しかけられてしまう。

「ありがとうございます。今日は大丈夫です。また考えます。」

先輩がそう言って私の手を引いた。

「そうですか。よろしければパンフレットをどうぞ。」

「ありがとうございます。」

フロントの建物を離れても手はつながれたままだった。サッパ舟のこたつで繋いだ時とは違い複雑な気持ちが入り混じる。

「・・・更科。」

「はい。」

「さっきあの女性(ひと)と話してた話なんだけど・・・。」

やっぱり明日先輩は私が食事や買い物中もそのことをずっと気にしていたことに気づいていた。私がわかりやすいだけなのかもしれないけれど。

「・・・更科には言えないんだ。ごめん。」

「・・・そうですか。大丈夫です。そういうことありますよね。」

無理矢理笑って見せる。この笑顔が偽物なこともバレバレなんだろう。

「本当にごめん。」

「いえ。」

そう言って手をすぼめるとふっと手が離れた。
< 96 / 162 >

この作品をシェア

pagetop