暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
ライバル出現の予感
「おはようございます」
「ああ、おはよう。コーヒーを頼む」
「はい」

一条プリンスホテルでの勤務にも創介副社長との会話にもすっかり慣れた。
時々意地悪いことを言われることもあるが、基本的にいい人なのだとわかって聞き流せるようにもなった。
そのきっかけは、おそらく先日のパーティー。
あれから副社長が私に優しくなった気がする。
呆れられたのか同情されたのか理由がどこにあるのかはわからないけれど、当たりが柔らかくなったのは間違いない。

「そう言えば、この間言っていた店の予約がとれたぞ」
「え?」
唐突な話の展開に、私の動きが止まった。

このあいだとは・・・・

「ほら,京懐石の」
「ああ。って、本当に予約したんですか」
「だって、食べたことがないって言っていただろ?」
「それはそうですが・・・」

パーティーでアクシデントに巻き込まれ足をくじいた私は、しばらくの間整形外科通院を余儀なくされた。
出来るだけ歩かない方がいいとのお医者さんの意見で、朝は会社の車が迎えに来て、帰りは創介副社長に送ってもらう生活が続いた。
当然車内では二人になるわけで、世間話もするようになりお互いの好みや趣味の話をするようにもなった。
そんな中で一番感じたのは育った環境の違い。
病気がちであまり外出のできない美愛がいたこともあり、専業主婦だった母の手料理で育った私は外食の経験が多くはない。特に高級なお店には全く縁がなくて、創介副社長の言う「あれが美味いんだよ」というものがほとんどわからない。
副社長は私が「へー、食べたことがありません」と答えるたびに、「じゃあ、今度行こうか」と言ってくれて、予約をとってくれる。そんなことが何度か繰り返されている。
今回も、「夏は鱧だよな」と言われ、「鱧は食べたことがありません」と答えた私のために京懐石の予約をとってくれたのだ。
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