薙野清香の【平安・現世】回顧録

5.

 清香の目の前に、カラフルで可愛らしいプレートと、SNS映えしそうな食事が並ぶ。清香と芹香の瞳がキラキラと輝いた。


(さすが夢の国っ!可愛い‼)


 席に着くや否や、清香はサッとカメラを構えた。芹香がそれを楽しそうに眺めている。


「やっぱり別々のメニューにして正解だったね、お姉ちゃん」


 芹香の言葉に、清香はコクコクと頷いた。同じ料理を楽しむのも良いが、別々のものの方が、視覚も味覚も倍楽しめるのだ。


「あとでシェアしようね!東條君も!」

「うん」


 芹香がそう言って満面の笑みを浮かべた。東條はそんな芹香を見つめながら、穏やかに微笑んでいる。清香はそっとカメラの向きを変えると、東條と芹香の二人をレンズに収めた。


(ナイスショットだわ!)


 ガッツポーズを浮かべながら、清香は笑った。モニターに映るのは、あまりにも神々しい二人の画だ。芹香にも東條にも、心の中何度もでイイネ!ボタンを押し続ける。


(あーー、幸せ!私もう、これだけで今日はお腹いっぱ……)

「随分少ないな」


 清香の思考を遮ったのは、テノールの抑揚のない声だった。背中の毛がゾゾっと逆立つ感覚がして、清香が身体を強張らせる。


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