薙野清香の【平安・現世】回顧録

2.

「少しは落ち着いたか」


 清香が泣き止んだのを見計らって崇臣が尋ねる。泣いてる間中、崇臣は清香を抱き締め、頭を撫で続けてくれていた。


(落ち着きはしたけど……)


 冷静になってしまった今、清香は自分の行動がひどく恥ずかしかった。年甲斐もなく、大声で泣き縋るなど、あってはならないことだというのに。


(しかも相手がこの男という)


 ほんの2か月前、こっぴどく振った相手に対して取る行動としては最悪だろう。


「……ごめん、ありがと」


 何と言えばいいか迷いつつ、清香はそう呟いた。
 どうやら崇臣は、清香の涙の理由を詳しく問いただすつもりはないらしい。恐らく清香の話していることは全く理解ができなかっただろう。けれどただただ胸を貸し、真っすぐに清香の感情を受け止めてくれた。

 意を決して、崇臣の胸に埋めていた顔をそっと動かす。清香の剥き出しのうなじに崇臣の吐息が掛かった。


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