ファンタジック・バレンタイン
高梨君
「はあ。」



私こと米山ななは通学路の途中にある、小さな児童公園の古ぼけたブランコに小さく揺られながら、ひとりため息をついた。



木枯らしが冷たい夕暮れ時、公園には人っ子ひとり見えず、ただ足元に数羽の鳩がエサを探して歩き回るばかりだった。



空にはうっすらと折れそうな三日月が浮かんでいた。



私は学生カバンの中に忍ばせた、ブルーの包装紙に銀色のリボンをかけた四角い箱を取り出し、それをじっとみつめ、また大きなため息をついた。



「あーあ。とうとう渡せなかったな。」



今日はバレンタインデー。



隣のクラスの高梨広臣君に、このあふれる想いを伝える絶好のチャンスだったのに。



でも・・・あんな場面を見てしまったら、チョコなんか渡せるはずない。

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