まさか推しの作家が幼馴染だったなんて ~ハイスぺオタク男子の甘い溺愛~

◆第五話 眼鏡

〇翔太の家(玄関)・平日(朝)

翔太を迎えにきた美羽。

翔太「美羽ちゃん…今日も可愛いねぇ…」

ニチャアと笑う翔太。

美羽「ばっ、馬鹿じゃないの!」

美羽は照れのあまり慌てて背後を向き、その鞄が翔太にぶつかって眼鏡が外れて落ちてしまう。

美羽「あっ…」

バキリ、と良い音がして美羽が踏んでしまった。
青くなる美羽。

美羽「わわわ…! ごめん、翔太!!」
翔太「大丈夫。替えがあるから」

そう言って翔太は鞄から眼鏡を取り出そうとするが、バイクに乗った素早い引ったくりに鞄ごと盗まれてしまう。

引ったくり男「ええぃ! いちゃついてるんじゃねぇ!」
美羽「泥棒〜!!!!」
引ったくり男「うるせぇ! カップルの男の荷物を盗むのが趣味なんだ! 一文無しになって振られやがれ!! バーカバーカ!」

そう言いながらバイクで去って行った男。
あまりのことに呆然とする美羽と翔太。

翔太「困ったな…参考書も買い直さなきゃいけないし」

ため息を吐く翔太。

美羽「眼鏡がないと何も見えないよね?」
翔太「…………うん」

美羽は自分のせいだと自責の念に駆られる。

美羽(翔太の眼鏡がなくなっちゃったのは私のせいだもの…! 私が助けなきゃ…)

美羽「じゃあ、新しい眼鏡ができるまで私が翔太の目になる!」



〇翔太の家(浴室)・平日(夜)


美羽「か、かゆいところはありませんか…?」

震える声で言いながら、美羽は翔太の背中をスポンジでこする。
美羽はモコモコ生地のビンクと白のしましまパーカーと同色の膝上のパンツ。完全に寝巻きだ。
対する翔太は腰にタオルを巻いてはいるが全裸である。
二人とも照れのあまり顔が赤い。

翔太「う、うん。大丈夫。下半身は自分でやるからスポンジ貸してくれる」
美羽「あっ、うん…」

狭い湯気の立つ浴室の中で、美羽は顔を真っ赤にさせる。

美羽(どうしてこんなことまで…そりゃ翔太の目になるって言ったけど…っ!)

お風呂やトイレに案内させたり色々ギリギリのことをさせられて美羽は限界に近かった。

美羽「眼鏡いつできるの!?」
翔太「え、えっと…特殊な眼鏡だから一週間かかるって言われてて」
美羽「い、一週間…!?」
美羽(耐えられるかな…)


〇学校(教室)・平日(昼)


翔太「え、え〜と…なんて書いてあるんだ?」

翔太は配られたプリントを間近で凝視する。
重い前髪が邪魔だったので、手で掻き上げて少しでも良好な視界を確保しようとしたが。

女生徒「イッ、イケメン…」
女生徒2「嘘ッ、やば…え? マジ?」
女生徒3「柴ヤバすぎでしょ! アイドル顔負けじゃん!」

ざわつくクラスメイト達。

翔太「あ…まずい…」

翔太は青くなる。
美羽は慌てて先生に向かって挙手した。

美羽「先生! 柴君は眼鏡を無くしてあまりよく見えないので、隣の席で助けてあげても良いですか!?」
女生徒「え〜! そうなの? じゃあ私が見せてあげるよ」
隣の席のギャルの女生徒が翔太の席に机をくっつける。
それを見て美羽は顔を歪ませる。

美羽(昨日まで翔太のこと『オタクきもっ』とか馬鹿にしてた癖に〜〜!)

翔太が美形と分かったら掌返しがすごい。逆に潔いレベルだ。

翔太「あ、ありがとう。これ、何て書いてあるの?」
女生徒「え〜、これはねぇ…」

ギャルが翔太の腕に胸を押し付けている。
至近距離で会話している二人に美羽は面白くない気持ちになる。

男子生徒「チッ…」

翔太とギャルのいちゃつきを見て、クラスの男子達が殺気立っていた。
クラスの不穏な雰囲気を感じて美羽は眉を寄せる。


〇学校(教室)・平日(昼)


ニヤニヤ笑いをしながら翔太を囲む男子生徒二人。

男子生徒「オタクく〜ん、トイレ付き合ってよ」
翔太「えっ、でも…」
男子生徒2「良いから。目が見えないんだろ? 連れて行ってやるよ」

女子ならともかく男同士でトイレに誘うなんて奇妙だ。

美羽(翔太は目が見えないけど…でもやっぱりおかしい)

今まではトイレの前まで美羽が付き添っていたのだ。
美羽は翔太に近付く。

美羽「翔太! 私が一緒に行くから…っ!」
男子生徒「葉加瀬、お前は男子便所まで付いていけないだろ。俺達に任せろよ」
美羽「で、でも…っ」
翔太「み、美羽ちゃん。俺は大丈夫だから…」

ニチャアと笑う翔太。
美羽は口ごもり、その場に立ちすくむ。
翔太は男子生徒二人に連れて行かれてしまう。

美羽(わ、私の考え過ぎ?)

男子生徒は翔太の首に腕をまわしている。連れて行かれる様子は仲の良さげにも見えるが……。
もしかしたら翔太が男子生徒達に危害を加えられてしまうかもしれないと美羽は不安になった。

麗華「美羽、あれは危険ではありませんの?」

麗華からそう指摘されて、美羽はうなずく。

美羽「そうだよね。様子を窺ってみる!」

美羽は翔太達の後を追った。



〇学校(男子トイレ)・平日(昼)


美羽は男子トイレに入ることに躊躇しつつも、こっそりと中を窺う。
ビクビクしている翔太と、彼を見て馬鹿にする男子生徒達がいた。

翔太「お、お、俺に何か用?」
男子生徒「オタク君さぁ、急に調子乗りすぎでしょ」

男子生徒は翔太の襟首をつかんで睨みつけている。

美羽(目が見えない相手になんて卑怯な…!)

美羽はカッとなって助けに入ろうとしたが──。

翔太「…俺って見た目がオタクだからよく街でも絡まれてたんだ。だから当然対策すると思わない?」

翔太は隠し持っていた催涙スプレーを男子達に噴射。
悶絶している男子生徒達を即座に蹴り飛ばして気絶させた。
美羽が呆然と見ている。
翔太はきまり悪そうにしていた。


〇学校(渡り廊下)・平日(昼)


翔太「ごめん…助けに入ろうとしてくれたことには気付いてたけど、美羽が怪我したら嫌だから倒しちゃった」
美羽「い、いや、それは良いんだけど…目は見えてないんだよね!? さっきの動き何!? 目が見えてる人みたいな動きじゃん!」
美羽(翔太が格闘技やってるのは知ってたけど…)
翔太「…み、見えてないよ。でも、俺は昔から弱視だから人より耳が良いし気配に敏感なんだ。だから目が見えてなくても前にいるのが誰なのかとか、物の位置も音の反響具合でわかるし。相手の雰囲気で表情も想像できる」
美羽(それって盲目の人の見えてないのに見えてるってやつ…?)
美羽「じ…じゃあ、まさか私が甲斐甲斐しく翔太のお世話しなくても生活できたんじゃ…?」

青くなったり赤くなる美羽に、黙り込む翔太。
翔太は申し訳なさそうに赤くなった頬を搔く。

翔太「ごめん…必死に俺のお世話をしてくれる美羽が可愛くて…そばにいてくれるのも嬉しかったし」

つまりわざと何も見えない振りをしていたのだと白状されて、美羽はぷるぷると震える。

美羽「翔太のばか──!」
美羽(心配して損した…!)
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