シンデレラはもう帰れない。

 わたしはびっくりしてローファーを床に落とす。
 床に転がるローファー。

 なんで、そんなこと言うの?
 もうここから動けない。

 ……もう帰れないよ。

「え、灰野(はいの)さ…」

「ごめ……びっくり…して…」

「…灰野(はいの)さん、覚えてないかもしれないけど」

「夏休み前に俺、階段で下駄箱の鍵落としたの」
「サイズ小さいから気づかなかったんだけど」

灰野(はいの)さん、届けてくれて」
「めっちゃ可愛い顔で微笑んでくれてさ」


「誰にも見せたくない」
「俺のにしたいって思った」


「それで礼言いそびれたから屋上階段まで上がって行ったんだけど」


「……隣に座るのが精一杯だった」


 あの日、ドキドキしてたの、
 わたしだけじゃなかったんだ…。

 わたしの両目から、ぶわっと涙があふれた。
 涙が零れ落ちていく。

「あ、勝手に語ってごめ…嫌だったよな」

「違う」
< 11 / 17 >

この作品をシェア

pagetop