シンデレラはもう帰れない。
「まだ帰ってなかったのか?」
「あ、えっと…」
藤原くんの目線が上履きに移る。
「上履き、汚れてる。何かあったのか?」
「じ、実は下駄箱見たらローファーがなくなってて…」
「灰野さん、来て」
右腕を掴まれて、
スクールバッグの定期券に付いた銀色の小さな下駄箱の鍵が揺れる。
まるでお城の舞踏会に誘われたみたいに、
藤原くんと教室の中に入った。
扉を閉められ、藤原くんと教室でふたりきり。
なんでこんなことに……。
藤原くんとふたりきりになんて、
なりたくなかった。
好きな気持ちで溺れてしまいそうだから。