鬼上司は秘密の許嫁?!溺愛されるなんて聞いてません
出来れば皆が一緒の時にどさくさ紛れで挨拶をしておきたかったな。
ひとりで挨拶とか、なんか怖いしなぁ。
でも今から急いで戻ったところで間に合わないし…ん~まっ、いいか。
戻ればどんな人か分かることだし。
もしかして本当は顔だけ怖くて実は優しいパターンも有り得るしね。

「まずはお届けが先だ!よ~しっ、レッツゴー!!」

これに関しては悩んでも仕方ないということで、一旦頭から追い出すことにして気持ちを切り替えた私は、まだお客さんが居ない静かなモール内を台車を押して鼻歌混じりにトコトコ進む。

「ひーろーがる、えーがお~ここーは、みんなの憩いの場~♪」

ショッピングモールのテーマソングを口ずさみながら暫く進んで行けば、見慣れた店舗が見えて来た―ここが文具堂モール店だ。

着いて店内を覗くと、髪を後でひとつに纏めた女性の後ろ姿が。

「おはようございますっ」

「あっ、おはよう~」

店長の道上《みちのうえ》さんが一人商品棚を整理していた。
道上さんは手を止めて立ち上がると、頭を下げながらやって来た。

「本当に朝早くに連絡入れてごめんね」

「いえいえ全然。本当に大丈夫です」

再び頭を下げた道上さんに気にしないで下さいと両手をブンブン振って見せた。

道上さんはバイト時代の先輩だ。
文房具大好きな人で、店長に抜擢されてとても張り切っていた。
だけど売り上げが良くなくて…それで、少しでも何とかしようと頑張っているのを知っている。
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