鬼上司は秘密の許嫁?!溺愛されるなんて聞いてません

お昼休みはウワサでいっぱい

高層ビルが立ち並ぶ都内某所。
サラリーマンやOLがオフィス街をランチ目当てにキャッキャウフフと楽しそうに歩いている。
そんな秋の長閑《のどか》な昼下がり。

大手企業のスタイリッシュな建物やオシャレな店舗が並ぶ一画に、ポツンと建つ小さな古いビル。
それが老舗の文房具会社『sign―サイン―文具堂』。
そこの休憩室で情けない声で嘆いたのは私―卯月美花《うづきみはな》だ。

「うぅっ、私もランチに行きたいです…」

お弁当箱の中から手作りの卵焼きを口に入れ、力なくモグモグしながら私は思わず眉をへの字に泣き言を漏らした。
普段は手作りのお弁当だけど、週に一回はご褒美としてランチ―といってもワンコインだけど―へ行っていたのに、それも今週はお預けなのだ。

「卯月、それを言うな。俺達だって旨いもん食いに行きてぇんだよ」

「私だってオムオム亭のオムライス食べに行きたいの我慢してるんだから言わないで」

同じ休憩テーブルでコンビニ弁当をつついている先輩の前田さんが情けない顔で眉間の皺を深め、先輩の石原さんがリップがプルプルの唇を尖らせ揃ってブーブー言ってきた。

「オムオム亭のランチとか、マジでそれどころじゃないからなお前ら。サッサと食べて明日の準備の続きをするぞ!」

向かいに座ってカップラーメンを啜り眼鏡を曇らせている課長の松山さんが渇を入れつつ箸の先をビシッと向けてきた。
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