ひと駅分の彼氏
他の乗客たちもいっせいにスマホカメラをかまえて河川敷を撮影しはじめた。


呆然として見つめる視線の先に、真琴が立っているのが見えた。


思わず腰を上げて車窓の外を見つめる。


真琴が立っていた桜の根本へ視線を向けるが、そこには誰も居ない。


だけど私にはたしかに見えた。


真琴がそこに立っていて、こちらへ手を振っていたのだ。


それが真琴の最後の挨拶だった。


気がつけば涙が一粒頬を流れていた。


「ありがとう真琴。またね」


私は小さく呟き、そして見ているはずの真琴へ向けて満面の笑顔を作ったのだった。
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