君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
ジゼルは今日も一心不乱に針を動かしていた。
刺繡や編み物にはすっかり飽きてしまい、今はパッチワークに熱中している。
長年使っていたベットカバーが古びてしまったので、新しいものを作っているのだ。

「お姫様、こちらにいらっしゃったのですね。」
乳母のマルゴが紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
「お姫様は本当に手が器用でいらっしゃいますね。お店に出しても十分に通用しますよ。」
「ばあやの教え方が上手だからよ。」
そう言って、ジゼルはマルゴが焼いてくれたクッキーを頬張る。

ジゼルは一日の大半を美しい藤棚がある中庭で過ごすことが多かった。
エドウィナ前王妃の母国ウィステリア王国の紋章はグリシーヌ(フジの花)であり、
エドウィナ前王妃が寂しさを紛らわすためにこの藤棚を作らせたという。
前王妃が大切にしていた藤棚はジゼルの宝物でもあり、真心を込めて世話をした。
するといつしかこの藤棚の美しさは評判を呼び、この離宮はグリシーヌ宮という名前がついた。
そして社交界に全く姿を見せないジゼルは、
貴族たちの間で「グリシーヌ(藤の花)の王女」と陰で呼ばれるようになったのである。
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