新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜
「あっ。い、いえ、その……」
いきなり高橋さんが戻ってきて、会話を聞かれたんじゃないかと思って焦ってしまった。
「陽子ちゃんが……」
「あ、明良さん?」
「これから運転するのが、待ち遠しいらしいよ」
はい?
「それは、頼もしいな」
「ち、違います。そんなこと、言ってませんから。明良さん。変なこと言わないで下さい」
「いいから、いいから」
「良くないですよ。だいたい、何で私が……」
「デザートをお持ちしても、よろしいでしょうか?」
「お願いします」
運転なんて出来ないと、断固として言い返そうとした矢先、店員さんに話の腰を折られてしまった。しかし、美味しそうなデザートが運ばれてきて、思わず顔が綻んでしまい、すっかり言う気も失せてしまった。
「これ、半分食べるか?」
「えっ? いいんですか?」
「ああ」
「やった!」
「フッ……。お子様だ」
「なっ……お子様って」
「だって、そうだろう。デザート半分貰って、大喜びしてるようじゃ、まだまだ子供だ」
高橋さんに痛いところを突かれて、思わずムッとしていると、高橋さんと明良さんに大笑いされてしまい、自分でも可笑しくなっていつの間にか笑っていた。
美味しい食事でお腹もいっぱいになって、会計をしている明良さんにお金を払おうとした。
「キャッ……」
「お前はいいから、こっち」
「えっ? でも……」
高橋さんに腕を掴まれて半ば強引に外に出ると、高橋さんに背中を押されて一緒に駐車場までゆっくり歩き出した。
「美味かったか?」
「はい。とっても美味しかったです」
「それは、良かった」
「はい。ありがとうございます」
エッ……。
高橋さんにお辞儀をして頭を上げると、キーケースに付いた1本の鍵を持った高橋さんが私の目の前にその鍵を差し出して、悪戯っぽく笑っていた。
「高橋さん。だから、無理……」
うわっ。
「ちょ、ちょっと、高橋さん。本当に、無理ですって」
そんな私の言葉も無視して、高橋さんはロックが解除されていた車のドアを開けると、運転席に無理矢理私を座らせた。
「お待たせ−」
そこに明良さんも来ると、明良さんは何事もなかったように後部座席のドアを開けて座ってしまい、それを呆気にとられて見ていた私をよそに、高橋さんは運転席のドアを閉めると助手席に座ってドアを閉めた。
「あのぉ……」
「俺達、当たり前だけど、飲酒運転は出来ないから」
「明良さんまで、もう!」
「牛だ」
「えっ? 何? 貴博」
「……」
こうなってしまった以上、やっぱり運転するしかないの? 
でも、こんな大きなバスみたいな車、運転するのは怖い。
「あのさ、シートをもっと前の方に位置変えないと、アクセルとブレーキに足が届かないんじゃないか?」
「あっ。そ、そうですよね」
「シートは右のレバーの前の方。後ろはリクライニングだから、適当に調節してくれ」
「はい。うわぁ」
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