新そよ風に乗って 〜焦心〜
「昨日、私の携帯を拾って下さって、ありがとうございました。それで、その……私の携帯って、何処に落ちていたんですか?」
中原さんが拾って手渡してくれた時は、それどころじゃなかったから聞くに聞けなかった。
「携帯? ああ。エレベーターホールに、落ちてたよ。エレベーターから降りようとしたら、ちょうど目の前に落ちていたんだ」
うわっ。
もしかして、柏木さんとぶつかった時にポケットに入れておいたから落としたのかな。
「そうだったんですか。本当に、助かりました。ありがとうございます」
「ハハッ……。気にしないで」
中原さんは、笑って手をひらひらさせていた。
席に戻って、昨日、殆ど書類の処理を終えていたので、今朝はまだ少し余裕があったので、処理済みの書類を部署ごとに分け始めた。
「矢島さん。ちょっと、いいかな?」
「は、はい」
突然、何の前触れもなく名倉部長が会計まで来ていきなり言われたので、慌てて立ち上がって手帳とボールペンだけ持って後ろからついて行くと、名倉部長がA会議室のドアを開けて私を先に会議室の中に入れてくれた。
「おはよう」
エッ……。
嘘。
会議室の中には、まだ誰も居ないと思っていたのに、いきなり挨拶をされたので驚いて声のする方を見ると、長机を挟んで奥の席に総務の大竹部長が座っていた。
「お、おはようございます」
「掛けて下さい」
「は、はい」
名倉部長がドアを閉めて席に着いたので私も座ろうとすると、ドアをノックする音がして 直ぐにドアが開くと、私の横に誰かが立った。
「おはようございます」
エッ・・・・・・。
「ああ、おはよう。忙しい時間に、悪いね」
「いえ、とんでもありません。こちらこそ、直ぐにお時間を作って頂きまして、ありがとうございます。」
そう。私の横に立った人は、高橋さんだった。高橋さんが傍に居てくれると、やっぱり安心出来る。その声を聞けるだけでも……。
「では、始めましょうか。高橋君も、矢島さんも掛けて」
「はい。失礼します」
高橋さんが、椅子を引いてくれて私にも座るように合図をしたので、高橋さんに続いて私も座った。
いったい、これから経理部長と総務部長に何を聞かれるのだろう?
緊張と不安で落ち着かなくて、チラッと高橋さんを見たが、高橋さんは前を向いたままで
視線を合わせてはくれなかった
「早速だが……昨日、矢島さんが言っていた遠藤主任に対して身の危険を感じたというのは、どういうことがきかっけでそう思ったのか。因果関係を、出来るだけ詳しく説明してくれるかな?」
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