新そよ風に乗って 〜焦心〜
因果関係を、出来るだけ詳しく……。
最初の質問からいきなりストレートに聞かれ、昨日からある程度の覚悟は出来ていたけれど、まさか最初からこんな風に聞かれるとは思ってもみなかったので、驚きと焦りで頭の中が真っ白になってしまった。
どうしよう。因果関係なんて、どうやって説明すれば……。
目の前の長机の一点を見つめながら、あの時の記憶が鮮明に蘇ってきて心が軋んで悲鳴をあげ始めた。
でも、言わなければ何も始まらないし、何も終わらないんだ。分かっているはずなのに、なかなか声が出せないでいる。言わなきゃ。言わないと……。
「それは……」
そこまで言い掛けて、無意識に隣に座っている高橋さんの方を見てしまった。
すると、高橋さんもそんな私に気づいたのか、こちらを見てくれて目が合った。
「正直に」
高橋さん……。
『正直に』 高橋さんの言ったその言葉の重みを、肌で感じるとることが出来る。
何時だって高橋さんは、私がどんなに迷っていても必ずその手を引いてくれる。きっと今の私には、高橋さんへの確かな信頼が存在している。
自分のために。そして、こんな私のために、この時間を作ってくれている人達のためにも前へ進もう。
「あの……仕事中に、遠藤主任に無理矢理……キスをされそうになりました」
言い終えた途端、喉につかえていたものがスッと消えて気がした。
けれど、それは安堵と同時に、不安も倍増してしまった。
私の話の内容に、怪訝そうな表情で経理部長と総務部長が顔を見合わせていた。
一大決心して言えた安堵感と、これからどうなるのか予測できない不安。でも、その天秤の揺れを更に激しく揺さぶるように大竹部長の質問が続いた。
「それは、何時のこと?」
何時のことだったか?
確か、ケイティさんのことを高橋さんに聞いて、それで明良さんのマンションにご飯をご馳走になりにいった金曜日の次の週明けだったはずだから……。
「2月6日のことです」
大竹部長は、私の言ったことをノートに書き込んでいる。これが、証拠になるの?
「何処で、何時頃の出来事?」
嫌だな。何だか、取り調べみたい。
「総務の階の……女子トイレの奥です」
ああ。もう、早く終わって欲しい。
決心して言ったのは良かったが、矢継ぎ早に聞かれると正直めげてしまう。
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