新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜
会議が始まって、壁に張り付くようにして自分なりに会議の議事録を取りながら、改めて高橋さんの仕事の忙しさと内容の濃さに驚いていた。
何時、高橋さんは寝ているの? 体を壊さないといいんだけれど、心配だな。
予定時間より少し延びて会議が終了したが、レジメのミスもなくてホッとしながら書類を纏めていると、もたもたしていて高橋さんが持ってきた資料の殆どを持ってくれていた。
「あっ。あの、私も持ちます」
「お疲れ様。大丈夫だ」
「でも……」
「戻ろう」
「は、はい」
「高橋君」
会議室から出ようとしたところで、高橋さんが呼び止められて振り返ったので私も振り返ると、そこには社長が立っていた。
「ちょっと、今、社長室までいいかね?」
「はい。13時からまた会議が入っておりますので、それまででしたら」
「手間は、とらせない。ああ、君も一緒に来なさい」
エッ……。
嘘。
わ、私も?
何で、私まで社長室に呼ばれるの?
もしかして、これって……噂のことが……。
「は、はい」
返事をして直ぐに高橋さんの顔を見上げると、目が合った高橋さんは、少しだけ首を傾げたような気もがしたが、ポーカーフェイスなので表情からは何もくみ取れなかった。
高橋さん……。
高橋さんから離れないように少し急ぎ足で後に続き、社長室へと向かう。
いったい、何を聞かれるのだろう?
何を言われるのだろう?
どちらにしても、きっと今回の噂のことだろうと想像出来た。社長にまで呼ばれてしまうほど、大事になってしまった噂。その当事者の私は……どうなるんだろう?
でも、私のことはどうでも良かった。ただ、高橋さんに何かあったりしたら、もう私は会社には居られない。それだけは、分かっている。
社長室と書かれた重厚なドアを開けて社長が部屋に入り、続いて高橋さんが社長室に入ろうとしたように見えたが、ドアを持って私に先に入るよう促した。
お礼を言ってから中に入りたかったが、緊張から声が出ずにお辞儀だけになってしまっていた。
「お帰りなさいませ」
うわっ。
中に入りかけた際、立ち上がって秘書の人が社長にお辞儀をしている姿が目に入った。
やっぱり、社長の秘書の人達は凄いな。動作も、きびきびとしている。
「こんにちは」
高橋さんと秘書の人達は挨拶を交わしていたので、私も 「失礼します」 と言って後に続くと、秘書の人達は黙って会釈をしてくれた。
良かった。変な目で見られなくて。
高橋さんの後から付いていくと、奥の部屋に通された。
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